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賃貸住宅の質はなぜこんなに低いのか 〈前編〉

一般的に日本では「賃貸仕様」という言葉があるくらい、戸建てと賃貸の建物の性能に差異があります。賃貸住宅では断熱性も気密性も最低限。「これくらいでいいだろう」と言わんばかりの仕様がほとんどを占めております。

賃貸住宅生活実態調査

 

賃貸住宅の仕様が何故こんなに低いのか。「オーナーがお金をかけられないから」という月並みな答えしか思い浮かばなかった自分が情けなく思い、いろいろ書籍やレポートなどを読み漁ってみました。その中でたどり着いた非常に興味深いレポートが、リクルート住まい研究所による「賃貸住宅生活実態調査」です。ニューヨーク、ロンドン、パリ、そして東京という都市における賃貸住宅のあり方を比較、考察したレポートです。

リクルート住まい研究所 -NYC, London, Paris & TOKYO 賃貸住宅生活実態調査-

マーキングをしていたらマーキングだらけになってしまうぐらい、共感できることやなるほどと思わせる箇所がいくつもあります。どの議題から取り上げようか悩んでしまいます・・・。

 

第1章のタイトルが「賃貸住宅市場と持ち家市場」。単純な数値による比較ではなく、戦後の高度経済成長期から現代における国が打ち出した政策、それがもたらした問題点について語られています。私が思っていた「賃貸住宅の質が何故こんなに低いのか」という疑問に対して、過去のこうした流れがもたらした結果なんだということがよくわかりましたので、その辺をかいつまんでみようと思います。

住宅双六

「いつかは戸建ての住宅に」という考えの人が大多数だった時代がありますし、この考えは今も色濃く残っているのではないでしょうか。学校を出て、就職や進学で一人暮らしを始める。結婚を機に広い部屋に住み変えたり、マンションを購入する。子供ができて郊外の一戸建てに住み替えて住宅双六は完了。そういった一般家庭像の生活の移り変わりのことを「住宅双六」と例えることがあります。

賃貸住宅は妥協?

では賃貸に住んでいる間の暮らしは、戸建てに住み替えるまで「我慢」や「妥協」でしかないのか。そう言わんばかりの低品質な賃貸住宅ばかり。今は我慢して、いつかは・・・とは言うものの、賃貸で暮らす期間というのは短くはないですよね。例えば、学校を出て一人暮らしを始めて、30代で家を建てることができたとしても10年以上は賃貸暮らし。その間、ライフスタイルを蔑ろにしなければいけないのか。我慢しなきゃいけないのか。所有することでしか満足のいく住まいは手に入れることができないのか。そんな疑問と不満が私の中にあります。

経済政策の道具として

なぜこのような現状(低品質の賃貸住宅)になってしまったのか。その答えがこのレポートにありました。

戦後の経済的な混乱期と絶対的な住宅不足が顕在化していた時期、そして経済成長を実現させた時期においては、公的資金を住宅政策に振り向けるゆとりがなかったこともあり、民間資金を用いた住宅政策の推進は、政府にとってもきわめて都合が良いものであった。(中略)住宅投資が持つ経済波及効果の大きさからも経済政策の道具として利用されてきた。 

住宅の新築を促すための政策を国が打ち出す。そして住宅不足を補う。そうすることで経済の波及効果も期待できるという算段だったということ。そして、、、

1980年代半ばから1990年代に発生したバブルの生成と崩壊によって、終止符が打たれるべきであった。バブル崩壊後の住宅価格の持続的な下落は、住宅を家計における最大のリスク資産であるということを認識させた。

住宅不足であった当時の施策としては良かったが、住宅が十分に供給できた後も、その考え方や価値観が残ってしまったということ。世の中の流れが大きく変わっているにもかかわらず、社会制度がそのまま保持された。これは国と大手企業との癒着が絡んでいるのか。施策を変えるということは新築住宅着工数が減るということ。それをさせないために影の力が働いていたとも当然考えられます。

 

ちょっと長くなってしまったので、2つに分けました。

次回の後編に続きます。