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賃貸住宅の質はなぜこんなに低いのか 〈後編〉

「賃貸住宅の質はなぜこんなに低いのか」の後編です。ちなみに賃貸住宅全てを否定しているわけではありません。ということを前置きしておきます。引用は前回同様、リクルート住まい研究所の「賃貸住宅生活実態調査」からになります。

↓前回の記事〈前編〉はこちら。

賃貸住宅の質はなぜこんなに低いのか 〈前編〉

住宅は資産?それとも使用財?

依然として資産としての側面が強調される政策が継続されている。このような政策の失敗は、住宅市場に対して、次の三つの問題をもたらしてきた。 

 「政策の失敗」とまで言い切ってますね。その3つの問題というのがこちら。

  1. 低品質の住宅の大量供給と既存住宅市場の成熟の遅れ
  2. 賃貸住宅市場が未完備であるために、依然として住宅を保有させることで、家計を住宅の価格変動のリスクにさらしてきたこと
  3. 所有を前提とした住宅政策を運営してきたことの最大の問題は、住宅の資産面ばかりが強調される中で、われわれに住宅との正しい付き合い方を見失わせてしまった

この中で注目したいのは一つ目の問題です。空き家問題やストック化社会などの言葉をよく耳にするようになり、既存住宅市場の活性化に大きく舵が切られているように思えますが、その実態は依然として新築市場偏重の政策であることが指摘されております。

とりわけ着工戸数に対しては一年間に100万戸という暗黙の目標値を設定し続け、それが達成できなくなると予想されると、一戸あたりの単価を上昇させるために長期優良住宅などといったような単価をかさ上げすることを目標とするような政策運営がなされた。

建設新聞などを見ると「新築が何%増で好調」とか「何%減に転じた」とか、新築が多ければ多いほど良いような言い回しがされていることに違和感を感じていました。こうした言葉の端々からも未だに新築に偏重していることが見て取れますね。既存建物の有効活用に舵を切っているなら「用途変更による利活用が何%増」という統計があっても良い気がします。

戦後の高度経済成長期からバブルの生成、崩壊を経てもなお「新築偏重」である日本という国が、どれだけ他国から遅れをとっているのか。同レポートの中で書かれているので別の機会に取り上げたいと思います。

賃貸=持ち家までのブリッジ

このような住宅のライフコースの中では、賃貸住宅市場を持ち家までの短期的なブリッジとして位置づけている。そのために、いつかは住宅を持つという目標を実現させるために、賃貸住宅は劣悪な住環境でも仕方がない、むしろその方が住宅を購入するためのモチベーションを高めるといったことで、政策上放置してきたという点である。(中略)短期間に償却させるような地主の節税対策としての賃貸住宅経営を促進させる税制を設定することで、良質な賃貸住宅の建設を阻害させるようなことも暗に促してきた。

「子供ができるころには家を持ちたい」という声をよく耳にします。近隣を気にしなければならなかったり、十分な広さがなかったり、そもそも自分が住むにしても満足していないことが多いのですから、可愛い子供には健康的でのびのび暮らせるような家で育って欲しいと思うのは当然のことです。しかし、十分な住環境の賃貸住宅が提供されていないのが現状であり、その問題というのが政策の歪みによってもたらされているということがここで指摘されております。

まずは現状把握

国がこれからも新築戸建てを促進する政策ばかり打ち出していくのであれば、賃貸住宅の住環境が戸建てレベルになることは期待できないでしょう。

このレポートを読んでみて、まずはこうして現状をしっかりと把握することが必要だということがわかりました。賃貸住宅の質が低いから、じゃあ頑張って質の高い賃貸住宅を作ろう!という単純な問題ではないということ。「質」と一言で言っても、それが断熱気密の快適性のことなのか。もちろんそれも大事ですが(特に寒冷地の北海道においては)、住宅に対する満足度の指標はそれだけではありません。

自分の住む札幌でどのようなアクションを起こせば賃貸市場に一石を投じることができるか。それを考えながら、このレポートをじっくり読み返してみようと思います。