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ポートランドの都市計画「ミクストユース」

ここ数年、書籍や雑誌や様々なメディアで「ポートランド」というワードを目にする事が多い事に気づいている方もいると思います。

そこで、ポートランドとはどんな街なのか、イメージに関するキーワードを列記してみましょう。

 

 

  • 住みたい街、住みやすい街
  • アウトドア文化
  • 自転車都市
  • オーガニック農業
  • 美食
  • 消費リテラシーが高い
  • 起業、独立の精神
  • クリエイティブ
  • クオリティオブライフが高い
  • サスティナブル 

などなど。

今までの「アメリカ」というイメージから、一歩も二歩も抜け出した文化や価値観を持つ街だということがわかります。

都市の概要

この国の基本的な概要だけかいつまんでご説明します。

場所はアメリカの西海岸。
北のカナダから南のメキシコまでにかけて、3つの州があり、北から順にいうと・・・

それぞれの州の最大の都市を( )に示しております。
ポートランドとシアトルは「ノースウエスト・コーストの二大都市」と呼ばれています。

ポートランドの人口が約63万人(2015年)に対して札幌市の人口が196万人(2017年6月現在)。札幌市と比較すると、約3分の1ぐらいの規模ですね。

 

魅力的な都市ができるまでどのような歴史を辿ってきたのか。「都市計画」という部分で説明しようとすると1950〜1970年代頃まで遡ることになります。ちょっと長くなりますが・・・

経済発展を目指した1950年代

戦後、1950年代の米国社会が目指していたのは経済発展。国が法を整備し、自治体の都市計画者たちが自動車交通の利便を図るため高速道路を計画したり、古い住区を取り壊して高層ビルを建設することを許可するなど再開発事業を推し進めておりました。1956年に通過した連邦補助高速道路法は、たくさんの住区を取り壊し、10車線の高速道路を建設する事業計画でした。これをローメックス計画といいます。

しかし、都市計画者や専門家の意見は全て正しいと考えられていた時代だったため、その計画について反対運動が起きたりすることはありませんでした。

 住民反対運動が活発化する1960〜1970年代

変化が起き始めたのは1960年代から。米国の政治や社会、経済に対する諸問題を告発する内容の書籍が次々と刊行されベストセラーとなります。先陣を切ったのは、建築雑誌の編集者であったジェイン・ジェイコブズが書いたアメリカ大都市の生と死」(1961年)。

ジェイコブズはローメックス計画に反対する団体や著名な建築批評家などと一緒に住民反対運動の組織を立ち上げます。1962年の末に事業を一時的に中止させることができましたが、その後市長が変わるごとにローメックス計画の復活と、市民反対運動による中止を何度も繰り返します。ニューヨーク州補助金リストから外され、やっと終止符が打たれたのは1971年のこと。長い年月を要しました。

4つの影響

ジェイコブズが書いた「アメリカ大都市の生と死」により、その後の米国の都市計画に影響を与えたものが4つあるとされています。(参考文献(1) による)

  1. 専門家に任せっきりであった都市計画を市民が立ち上がって議論を進めたこと。
  2. 都市計画者などの専門家が考えた再開発事業というものが最善であるという神話をぶち壊したこと。
  3. 権力者集団に対抗するには、戦闘的な市民反対運動が必要であること。
  4. アメリカ大都市の生と死」で示された都市計画の新しい原理が、都市計画者にその後大きな影響を及ぼしたこと。

 都市計画の新しい原理「ミクストユース」

今の日本の都市計画では、「住宅街」や「オフィス街」という言葉があるように、様々な用途が混在しないよう、用途純化(用途の混在を抑制し適切な都市環境を実現していくこと)していくことが望ましいと考えられてきました。

しかし、50年以上も前にジェイコブズが指摘した、都市計画の新しい原理「ミクストユース」という考え方が、今になって見直されています。ミクストユースとは「働く所、住む所、遊ぶ所、買い物する所など、複数の用途をあえて混在させて賑わいを創出すること」です。

用途純化した場合の副作用として、「住宅街→朝と夜は人がいるけど、日中は人気がない」「オフィス街→日中は人がいるけど、夜になると人気がない」といったことが挙げられます。

一方で、適度にミクストユース化できれば、昼も夜も人が行き交い、地域経済も回り、活気のある街にすることができますし、そういった街の雰囲気というのが「魅力」となり「住みたい街(エリア)」になっていくのだと思います。

次回予告

この続きとして、次回は札幌の街の魅力を「ミクストユース」というキーワードから掘り下げていきたいと思います。

 

参考文献

(1)「なんの変哲もない取り立てて魅力もない地方都市 それがポートランドだった〜「みんなが住みたい町」をつくった市民の選択」著/ビイ タオタオ(2017.3)

(2)「ポートランド 世界で一番住みたい街をつくる」著/山崎満広(2016.5)